【コラム】なぜいま、YKKがパナソニックハウジングソリューションズを買収したのか。
なぜいま、YKKがパナソニックハウジングソリューションズを買収したのか。ここに至るまでのYKKとLIXILの歩みと、それぞれの戦略を振り返る。
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昭和のアルミサッシ
建売住宅がまだ「文化住宅」と呼ばれ、木製建具の隙間風が当たり前だった昭和の終わり。
現場に新しい素材が上棟され始める。銀色に光るアルミサッシ。
その主役は、トーヨーサッシから始まりトステムへと変貌していく潮田家の会社と、ファスナーから世界企業になったYKKが立ち上げた建材部門――のちのYKK APだった。
当時の大工のあいだで、こんな言い方がされることもあった。
「トステムのサッシは薄くてペラペラだ」
アルミ形材の肉厚を必要最小限に抑え、コストと施工性を追い込んだトステムのサッシは、保守的な職人からすれば「軽すぎる」存在だった。
その一方で、建売業者やハウスメーカーにとっては「安い・早い・揃っている」新しい武器でもあった。
現場監督が図面に赤鉛筆を走らせながらつぶやく。
「でも、結局トステムしか間に合わないんだよな」
薄いサッシ、厚い執念。
ここから、YKK vs トステム、のちのYKK AP vs LIXILという、日本の窓をめぐる長い競争が始まる。
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「薄いサッシ」を補う「商品企画」
潮田健次郎氏、そして長男の潮田洋一郎氏。
創業家二代にわたって、トステムは「新商品の投入」で勝負してきた。
・住宅サッシを規格化して在庫を営業所に置く
・大量生産と全国物流網
・サッシと玄関ドア、面格子、エクステリア、キッチンから始まった住設、そして構造パネルをまとめた提案。それを「総合化」と称して売りまくったのだ。
その頃のトステム営業マンは、サニトラ、ダットラというトラックが営業車だった。腕まくりして、販売店と一緒に現場に荷物を運んでいた。
昭和後期から平成初期にかけて、YKKが握っていたサッシシェアは、こうした仕組みと営業力の前にじわじわと侵食されていく。
シェアを取り始めると、会社が大きくなり、高学歴社員の採用が始まる。
会社の雰囲気も大企業のようになり、乗る車も荷物が積めないアルトやミラに変わっていった。
元々は余裕ぶっていたYKKの営業マンからは余裕がなくなる。
あのYKKが、汗だくになりながらトラックでサッシ梱包を運ぶ営業マンも現れた。
そのとき、トステムの社員はショールームで施主にプランボードを説明していた。
サッシよりも水回り商品や構造パネルを売った方が業績も上がることを覚えた。
工務店に水回り商品を売るために、女性のキャンバサー制度を導入して、さらには、カタログを配布をするアソシエと言う女性スタッフも活躍し始めた。
振り返ると、この頃からトステム社員の服装もおしゃれになったように思う。
それを見た創業者の潮田健次郎氏はフランチャイズチェーンの全国大会で、「トステム社員が大企業病になってしまった」と繰り返し口にしていた。それは裏返せば、すでに「勝者の疲れ」が見え始めていた証だったのかもしれない。
それでも結果として、トステムはYKKを抜き、サッシ市場のトップを走り続けていた。
これが「第1ラウンド」の市場構図だった。
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YKKは「サッシ」をやめて「窓」を名乗った
反撃のとき、YKKは言葉から変えた。
「サッシを売る会社」ではなく、「窓を考える会社」。
そう名乗り、テレビCMで猫と窓辺の物語を流し始める。
2014年から続く「窓と猫の物語」シリーズだ。窓辺に現れる猫と子どもたちの小さなドラマを、映画のようなトーンで描くブランドCM。
そこに映っているのは、性能値や価格ではない。
窓からこぼれる光、外と内のあいだに生まれる情緒――「開口部の情緒価値」そのものだった。
一方トステムは、アイドルをCMに採用していた。
今思えば、タイミングや社会的な出来事に左右される難しさもあった。未成年タレントの喫煙トラブルや薬物問題などで、せっかくのCMが予定通りに展開できなかったケースもあった。
LIXIL(トステム)は高い費用を払ってチャレンジを続けたが、YKKは猫。
猫は大きなトラブルを起こすこともなく、ロングランのクリエイティブとして浸透していった。
当時は、「あの猫の世界観にやられた」と複数のLIXIL社員から聞いたものだ。
そして、YKK APはもうひとつ、静かだが本質的な賭けに出る。
樹脂窓だ。
日本の住宅は長くアルミサッシが標準だったが、北海道・東北からじわじわと樹脂窓の波が押し寄せる。
断熱性に優れた樹脂サッシは、寒冷地でこそ力を発揮する。YKK APはAPWシリーズなど樹脂窓ラインを拡充し、いまや住宅用樹脂窓の国内市場で出荷数量No.1、シェア7割といった数字も紹介される存在になった。
業界関係者の間では、かつて潮田洋一郎氏が記者会見の場で「樹脂サッシってものはチープだ。欧州ではチープで知られている。うちも樹脂を作って思い切り価格を下げて終わらせてもいい。」と語ったと伝えられている。
強気な潮田氏は、安価でチープな窓より、アルミ+複合の高級路線――その美学がLIXILを動かし、樹脂窓への本格参入を相対的に遅らせた、と見る向きも少なくない。
YKKが「窓から始まる物語」を描いているあいだ、LIXILは「アルミの王者」としての自負を離さなかった。
やがて、その差は数字となって現れる。
窓、とりわけ樹脂窓のシェアはYKK APが優位に立ち、LIXILはかつての本丸でシェア争いで苦戦する局面を迎えるようになる。
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トステムが巨大生物「LIXIL」になるまで
2011年、サッシ屋だったトステムは、すでに別の生き物になっていた。
・トステム(サッシ・建材・ウォールエクステリア・構造パネル・住宅設備)
・INAX(衛生陶器・住宅設備)
・新日軽(アルミ建材)
・サンウェーブ(住宅設備)
・東洋エクステリア(外構エクステリア)
※ここで言う住宅設備とは、システムキッチン、ユニットバス、洗面化粧台など。
この5社を束ね、「LIXIL」という新ブランドが誕生する。
潮田家の会社は、日本最大級の総合住宅設備メーカーへと変貌を遂げた。
しかし、創業家だけではこの巨大生物を世界に連れ出せないと潮田洋一郎氏は考えた。
そこで招かれたのが、「プロ経営者」藤森義明氏である。
藤森氏は日商岩井を経てGE本社の上席副社長まで上り詰めた、筋金入りのグローバル経営者だった。
2011年8月、LIXIL社長兼CEOに就任すると、彼は攻めに出る。
印象的だったのは、FC全国大会の最初の挨拶で、「日本におけるエネルギー事情は、、」から挨拶が始まったことだ。
今までは、国内の住宅着工数とか、新たな製品のことなど、身近な話題だったので、「エネルギー事情」と言われた時は、LIXILは我々の知っているトステムとは違うステージに進もうとしているのだと気付かされた。
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GE仕込みの男、藤森義明氏 ― 栄光と課題
藤森氏が最初にやったのは、海外M&Aのアクセルを床まで踏み込むことだった。
・2013年 米ASD Americas Holding(American Standard Brands)を約531億円で買収。北米の衛生陶器・浴槽メーカーを傘下に収める。
・同年 ドイツの水栓金具大手GROHEグループを約4000億円規模で共同買収。欧州のプレミアム水栓ブランドを取りに行く。
総額5000億円に迫る大型M&A。LIXILの売上高は1.5倍となり、海外売上比率も1割未満から3割近くまで一気に押し上げたと報じられている。
しかし、その華やかな軌跡の陰で、見えない穴が空いていた。
中国の関連会社「ジョウユウ(Joyou)」の会計情報が十分に把握できていなかった問題だ。
グローエ側がかつて出資していたこの中国企業の破綻により、LIXILは巨額の損失を計上。
「M&Aで拡大した売上」と「不透明な子会社リスク」という二面性が、やがて藤森体制を揺さぶる。
2015年末、藤森氏の退任が発表される。
公式には任期満了に近い形で語られたが、実態としては不正会計問題が退任の背景のひとつになったと分析されている。
創業家が招いたプロ経営者は、世界地図の上では成果を残しながらも、コントロールが難しいリスクに直面し、バトンを次の経営陣へと渡すことになった。
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モノタロウ創業者・瀬戸欣哉氏の「スリム化革命」
藤森氏の次に、LIXILの舵を握ることになる男もまた、外部から来た。
ネット通販「MonotaRO」の創業者として知られる瀬戸欣哉氏。創業魂を持つ敏腕経営者だ。
彼が持ち込んだのは、
・本社機能のスリム化
・固定費削減
・サプライチェーンの再構築
いわば「スリムで回転の速いLIXIL」への脱皮だった。
兎にも角にも合理的だ。それは今も変わらない。
一方、創業家・潮田洋一郎氏の頭の中には別のビジョンがあった。
「LIXILは建材を軸にした総合住宅企業として、さらに大きくなるべきだ」
規模と支配力を志向する創業家と、無駄な事業を捨ててでも収益性を高めようとするプロ経営者。
二つの思想の衝突は、やがて日本企業には珍しい「株主総会での全面的な意見対立」に発展する。
2019年の株主総会。
創業家が推す取締役案と、瀬戸側を支持する海外投資家・旧INAX創業家などが推す案が激しくぶつかり合った。
結果は周知のとおりだ。
瀬戸氏が勝ち、CEOに返り咲く。潮田氏は会長を退き、経営の前線からは一歩距離を置くことになった。
日本の上場企業で、創業家とプロ経営者の考え方の違いがここまで表面化し、最終的に経営体制が大きく切り替わったケースとして、「LIXIL経営騒動」は今もガバナンスの議論で引き合いに出される。
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安定化したLIXIL ― それでも残る大きなテーマ
瀬戸体制のもとで、LIXILは
・不採算事業の整理
・ブランド体系の再構築
・デジタル戦略の推進
・利益率の回復
を進め、見事なまでに財務体質を立て直していく。
その一角に、スマートホームサービス「Life Assist2」がある。
AWS IoT Coreをベースに、クラウドネイティブなIoTプラットフォームを構築し、ドアやシャッター、エアコンなどをアプリや音声で制御できる仕組みだ。
2024年にはAmazonのAlexa連携認証も取得し、スマートスピーカーとの連動も本格化している。
さらに、リサイクルアルミ「PremiAL(プレミアル)」シリーズを立ち上げ、リサイクル比率70%のR70、100%のR100を展開。CO₂排出を最大75%削減する低炭素型アルミ形材として、2023年以降順次サッシやカーテンウォールに適用し始めた。
そして、ドイツの高性能アルミサッシメーカーSchücoと組み、日本向けに高断熱アルミサッシやカーテンウォールを展開する合弁会社「シューコー・ジャパン」を強化する方針も打ち出している。
――つまり、LIXILは「アルミ×リサイクル×高性能×IoT」という、自前の進化軸を手にしつつある。
それでも、どうしても向き合わざるを得ないテーマがある。
それが、窓シェアでの変化だ。
樹脂窓で勝負に出たYKK APに対し、アルミ優位にこだわったLIXILは、国内の窓市場での存在感をかつてほど示せなくなっている。
YKKは「窓」、LIXILは「総合建材」。
それぞれの強みを伸ばした結果、窓という一点では、現在は首位の座をYKK APに譲っている。そして、表舞台の裏側では、LIXILから多くの人材がYKK APに流れ込んだことはあまり知られていない。
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そして2025年11月17日 ― YKKの「次の一手」
2025年11月17日。
日経や通信社の記事が立て続けに配信される。
「YKK、パナソニック ハウジングソリューションズ(PHS)株式の80%取得」
「YKKグループがPHSを子会社化、事業規模1兆円へ」
YKKは、自社100%子会社の中間持株会社を設立し、その配下にYKK APとPHSを並べる構造とする。PHS株の80%をこの中間持株会社が持ち、残り20%はパナソニックホールディングスが持ち続ける。
株は大きく譲渡する。だが、完全には手放さない――20%を握り続けるこの構図は、「単なる売却」でも「単なる連携」でもないことを物語っている。
PHSは、トイレ「アラウーノ」、キッチン、バス、内装建材、宅配ボックスや雨樋、そしてテクノストラクチャー工法など、「家の中と外」をほぼ一式揃えられる住宅設備メーカーだ。2025年3月期の売上高は約4,795億円、従業員は1万人超を抱える。
YKK APは、窓・ドア・玄関まわりとカーテンウォールに強い。2024年度売上高は約5,616億円、2030年度までに1兆円規模を目標としてきた。
この2社が束ねられることで、「建築物に必要な建材の大部分をカバーできる1兆円企業」が生まれるとYKKは説明している。
新築に強いYKK APと、リフォームに強いパナソニック。
営業ルートはほとんど重ならず、「住宅まるごと」提案が一気に現実味を帯びる。
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会見場で語られなかった“本当の狙い”
堀会長(YKK)、山田社長(PHS)が並んだ記者会見。
質疑応答の中で、堀氏は「IoTは自社の得意分野ではない。パナソニックの強みを活かせる」と語った。
一方、山田氏は「だからこそ20%をパナソニックに残した」と言う。
パナソニックHDにとってPHSは「事業構造改革の一環として売却される事業」でありながら、完全な切り離しではなく「戦略的パートナー」として残る選択をしたわけだ。
ここに、三者の思惑が交差する。
パナソニックHDの狙い
・リフォーム市場への参入をYKKに頼る
・事業ポートフォリオの整理
・収益性の低い事業の切り出し
・それでも、住宅・建材という「暮らし」に関わる領域の種は残したい
YKKの狙い
・窓偏重だった事業構造から、「家まるごと」へ
・国内新設住宅着工の減少に対応し、リフォーム・リノベ市場への本格参入
・樹脂サッシメーカー「エクセルシャノン」と真空断熱ガラス「Glavenir」、そして将来のペロブスカイト発電ガラスなど、PHSが持つ先端ガラス・窓技術を獲得すること
PHSの狙い
・人員整理なし、ブランド継続という前提で、建材全体で勝てるフィールドに移る
・パナソニックのIoT・エレクトロニクスと、YKK APの開口部技術の両方を活用できる立場を維持する
表向きには「重複は少ない」「人員整理は行わない」と説明されているが、裏側ではもっと骨太な構図が動いている。
YKKは、この一手で 「窓の会社」から「包む会社」 へと変わろうとしている。
建物を包むガラス、サッシ、外装材、内装材、そして発電とIoT。
開口部は、断熱と採光だけでなく、「発電」と「データ」を担うインターフェースへと進化していく。外回りと内回り、全てを網羅する企業となる。
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エクセルシャノンと真空断熱ガラス「Glavenir」
今回の買収で、現場感覚のある人間が最もざわついたのは、
「YKKがエクセルシャノンを手に入れる」
ということかもしれない。
エクセルシャノンは、PHS傘下の樹脂窓メーカーとして、高性能樹脂サッシ市場で存在感を放ってきた。
2021年にはパナソニックと共同で真空断熱ガラス「Glavenir」を採用し、国内最高クラスの断熱性能をうたう樹脂窓を発売している。
Glavenirは、プラズマディスプレイで培った真空技術を応用し、厚さ約6mm程度でトリプルガラス相当の断熱性能を実現する真空断熱ガラスだ。欧州ではAGCと組み、住宅改修用途としても展開が進んでいる。
YKK APの樹脂窓技術と、エクセルシャノン+Glavenirが組み合わさると何が起きるか。
・樹脂窓の断熱性能が一段と底上げされる
・内窓(二重窓)や大開口サッシに真空断熱ガラスを組み合わせた「ハイエンド窓商品」が生まれる
・既存住宅の窓リフォーム市場で、YKK+パナソニックのネットワークを通じた提案が可能になる
LIXILがアルミとリサイクル素材で「環境価値の高い窓」を追求する一方で、
YKK+PHS連合は「断熱性能と発電機能を備えた窓」を磨いていく可能性がある。
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発電するガラスと、窓が握るエネルギー
パナソニックは、真空断熱ガラスだけでは終わらない。
2025年には、ガラス型ペロブスカイト太陽電池の開発でグリーンイノベーション基金の支援事業に採択され、ガラス一体型太陽電池の建材応用を本格化させると発表している。
ガラスそのものが発電し、外装材としても機能する――
窓・手すり・カーテンウォールが「発電デバイス」に変身する未来像だ。
これに、YKK APのカーテンウォール技術とサッシのノウハウが加わる。
開口部は、
・断熱
・採光
・防犯
・換気
に加えて、
・発電
・データ取得(IoTセンサー)
という役割を兼ねるインフラに変わっていく。
LIXILもまた、Life Assist2を通じて窓・シャッター・施錠をクラウドにつなぎ、住宅の状態をセンシングし始めている。
YKK+PHS vs LIXIL。
かつて「アルミか樹脂か」を争っていた戦場は、今や
・どちらがより多くの開口部を押さえるか
・どちらがより多くのデータと電力を建物の外皮から取り出せるか
という次元へと移りつつある。
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LIXILはどう対抗するのか ― アルミの逆襲
YKKが樹脂窓とPHSのテクノロジーを武器に「発電する窓」へ歩を進めるなら、LIXILはどこで戦うのか。
ヒントは、PremiALとSchücoの2枚看板にある。
PremiAL R70/R100は、リサイクルアルミを70%、100%使用しつつ、CO₂排出を最大75%削減する低炭素型アルミ形材だ。
・アルミの強度・剛性
・スリムな見付け
・大開口カーテンウォールへの適合性
を維持しながら、エンボディドカーボンを抑えられる。
Schücoとの合弁会社は、このPremiALを武器に、LCA(ライフサイクルアセスメント)対応の高断熱アルミサッシとカーテンウォールの本格展開を2026年前後から進めると報じられている。
YKK+PHSが「ガラスそのものを発電・断熱デバイスにする」方向で攻めるなら、
LIXILは「アルミフレーム側でCO₂を極限まで削る」方向に振っている。
つまり、
・YKK連合:ガラス中心のイノベーション(真空断熱、ペロブスカイト、樹脂窓)
・LIXIL:フレーム中心のイノベーション(リサイクルアルミ、高性能アルミフレーム、Schücoテクノロジー)
という構図だ。
この差は、将来の建築トレンドと補助金制度の設計によって、どちらがより優位になるかが変わりうる。
窓改修補助(先進的窓リノベなど)ではガラス性能が重視されるが、LCAやZEB/ZEHの評価では、使用建材のCO₂排出量そのものが問われるようになっていく。
開口部の未来は、ガラスとフレーム、そしてIoTとエネルギーの多次元ゲームになりつつある。
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住宅現場から見た「YKK+PHS vs LIXIL」のリアル
机上の戦略だけではなく、住宅やビルの現場に立ってみると、今回の買収の意味はよりクリアに見えてくる。
1. 戸建住宅の新築
・LIXIL系ビルダー
→ サッシ、ドア、キッチン、バス、トイレ、外壁、エクステリアまで、ほぼLIXILで完結できる。
・YKK系ビルダー
→ 窓と玄関ドアはYKK APだが、水回りや内装材は他社を組み合わせる必要があった。
ここに、PHSが入る。
YKK APの窓+PHSのキッチン・バス・トイレ・内装建材・宅配ボックス・エクステリア。
「LIXIL型のフルライン提案」が、YKK側でも可能になる。
一方で、YKK APにはTDYとのパートナーシップという、慎重な調整が必要なテーマもある。LIXILに対抗すべく、自社にない水回り(住宅設備)をTOTO、内装建材をダイケンと組んでいる。両社からみれば、パナソニックハウジングソリューションズは重要な競合とも言える。今日の会見で堀氏は「この2社にはまだ話をしていない。これから協議にはいる。今まで通りの関係でいたい。」と話した。
2. リフォーム市場
リフォームでは、パナソニックの水回り交換が強いポジションを持てるはずが、十分に軌道に乗り切れていない面もあった。新築主体のビジネスモデルだったからだ。
一方でYKK APは、窓やドアのリフォーム商材を持っているが、リフォームの華型である水回りを持っていないため、物足りなさも感じていた。
ここで、両社の思惑は合致した。
「窓+内窓+水回り+IoT」の総合リフォーム提案が一社グループで完結できる。
3. ビル・大型施設
LIXIL+Schüco連合は、
・高層ビル用アルミカーテンウォール
・PremiAL採用によるLCA対応
という武器で、ゼネコン・デベロッパー向けに強力なカードを持つ。
YKK+PHSは、
・YKK APのビルサッシ・カーテンウォール
・パナソニックの発電ガラス・真空断熱ガラス
を束ねることで、「発電と断熱」を前面に出した外装提案が可能になる。
現場レベルでは、工務店・ビルダー・ゼネコンが
「どのメーカーと組めば補助金が取りやすく、LCA的にも有利で、デザイン性も高いか」
をシビアに見ていく時代になる。
YKK+PHSの連合は、まさにその“選ばれる条件”を一気に揃えにきた一手といえる。
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物語は、ふたたび窓から始まる
昭和の大工が「ペラペラだ」と笑ったアルミサッシから、半世紀。
窓は、いまや
・光と風を通す穴
から
・熱と音を制御し
・電力を生み
・住まいのデータを集める
――そんな「インフラ」へと変わろうとしている。
YKKは、猫と子どもたちのCMで「窓がある。物語が生まれる。」と語ってきた。
LIXILは、アルミを循環させるPremiALで「無駄にしない未来」を描き、Life Assist2で「窓と暮らしをクラウドにつなぐ」構想を進めている。
そしてパナソニックは、ガラスそのものを発電させ、真空断熱で極限まで熱の出入りを抑えようとしている。
2025年11月17日。
YKKがPHSの80%を手に入れると発表したこの日は、日本の住宅・建材業界にとって、「窓の物語」が次の章へ進む合図でもある。
これからの10年、
・YKK+PHS連合が、樹脂窓・発電ガラス・内窓・IoTを軸にどこまで伸びるのか。
・LIXILが、PremiALとSchüco、Life Assist2でどこまで巻き返すのか。
その行き先は、現場で図面を引く設計者と、納まりを考える施工者と、窓辺で猫をなでる生活者が決めていく。
ここで両社がどれだけ巨大企業になったのか子会社や関連会社を並べてみる。
(YKK/PHS側) ■ 国内関係会社(日本) • 株式会社YKK AP沖縄 https://www.ykkapglobal.com/ja/company/locations/affiliated/ • 株式会社プロス https://www.ykkapglobal.com/ja/company/locations/affiliated/ • 株式会社イワブチ https://www.ykkapglobal.com/ja/company/locations/affiliated/ • 株式会社YKK APラクシー https://www.ykkapglobal.com/ja/company/locations/affiliated/ • 株式会社日東 https://www.ykkapglobal.com/ja/company/locations/affiliated/ • YKK APヘルスケア株式会社 https://www.ykkapglobal.com/ja/company/locations/affiliated/ • 琉球YKK AP工業株式会社 https://www.ykkapglobal.com/ja/company/locations/affiliated/ • YKK AP LANDSCAPE株式会社 https://www.ykkapglobal.com/ja/company/locations/affiliated/ • 株式会社テラヤマ https://www.ykkapglobal.com/ja/company/locations/affiliated/ • 四季工房株式会社 https://www.ykkapglobal.com/ja/company/locations/affiliated/ ⸻ ■ 海外関係会社(海外子会社) • YKK AP AMERICA INC.(アメリカ) https://www.ykkapglobal.com/ja/company/locations/affiliated/ • ERIE ARCHITECTURAL PRODUCTS INC.(カナダ) https://www.ykkapglobal.com/ja/company/locations/affiliated/ • YKK AP (CHINA) INVESTMENT CO., LTD.(中国・上海) https://www.ykkapglobal.com/ja/company/locations/affiliated/ • YKK AP (SUZHOU) CO., LTD.(中国・蘇州) https://www.ykkapglobal.com/ja/company/locations/affiliated/ • YKK AP VIETNAM COMPANY LIMITED(ベトナム) https://www.ykkapglobal.com/ja/company/locations/affiliated/ • 上記以外にも、マレーシア・インドネシア・タイ・香港・台湾などに複数社あり ・パナソニック リビング株式会社 https://panasonic.co.jp/phs/profile/ ・首都圏・関東社 https://panasonic.co.jp/phs/profile/ ・ホームエンジニアリング社 https://panasonic.co.jp/phs/profile/ ・パナソニック リビング北海道・東北株式会社 https://panasonic.co.jp/phs/profile/ ・パナソニック リビング中部株式会社 https://panasonic.co.jp/phs/profile/ ・パナソニック リビング近畿株式会社 https://panasonic.co.jp/phs/profile/ ・パナソニック リビング中四国・九州株式会社 https://panasonic.co.jp/phs/profile/ ・パナソニック住宅設備株式会社 https://panasonic.co.jp/phs/profile/ ・パナソニック内装建材株式会社 https://panasonic.co.jp/phs/profile/ ・パナソニック エレベーター株式会社 https://panasonic.co.jp/phs/profile/ ・パナソニック アーキスケルトンデザイン株式会社 https://panasonic.co.jp/phs/profile/ ・パナソニック AWエンジニアリング株式会社 https://panasonic.co.jp/phs/profile/ ・株式会社エクセルシャノン https://panasonic.co.jp/phs/profile/ ・ケイミュー株式会社 https://panasonic.co.jp/phs/profile/ ・ケイミューシポレックス株式会社 https://panasonic.co.jp/phs/profile/ LIXIL側 株式会社LIXILトータルサービス https://www.lixil.com/jp/about/structure.html 株式会社ダイナワン https://www.lixil.com/jp/about/structure.html 株式会社テムズ https://www.lixil.com/jp/about/structure.html 祖父江工業株式会社 https://www.lixil.com/jp/about/structure.html 株式会社LIXILトータル販売 https://www.lixil.com/jp/about/structure.html Gテリア株式会社 https://www.lixil.com/jp/about/structure.html 株式会社LIXILトーヨーサッシ商事 https://www.lixil.com/jp/about/structure.html 株式会社クワタ https://www.lixil.com/jp/about/structure.html 大分トステム株式会社 https://www.lixil.com/jp/about/structure.html 西九州トステム株式会社 https://www.lixil.com/jp/about/structure.html 株式会社LIXIL TEPCOスマートパートナーズ https://www.lixil.com/jp/about/structure.html 株式会社LIXILリニューアル https://www.lixil.com/policy/list.html 株式会社LIXIL住生活ソリューション https://www.lixil.com/policy/list.html 株式会社LIXIL住宅研究所 https://www.lixil.com/policy/list.html 株式会社LIXILリアルティ https://www.lixil-realty.com/about/ 株式会社LIXILイーアールエージャパン https://www.erajapan.co.jp/ 福山トステム株式会社 https://www.fukuyama-tostem.co.jp/ 旭トステム外装株式会社 https://www.asahitostem.co.jp/company/outline.php アイフルホームカンパニー https://www.jfa-fc.or.jp/fc-g-misc/pdf/4-1.pdf フィアスホームカンパニー https://www.fiace.jp/ ジーエルホームカンパニー https://www.glhome.lixil-jk.co.jp/ サンヨーホームズ株式会社 https://www.sanyohomes.co.jp/ LIXIL Europe S.à r.l.(ルクセンブルク) https://www.lixil.com/jp/about/structure.html Grohe AG(ドイツ) https://www.lixil.com/jp/about/structure.html ASD Holding Corp.(米国) https://www.lixil.com/jp/about/structure.html A-S CHINA PLUMBING PRODUCTS Ltd.(ケイマン諸島) https://www.lixil.com/jp/about/structure.html A-S (China) Co., Ltd.(中国・上海市) https://www.lixil.com/jp/about/structure.html LIXIL Vietnam Corporation(ベトナム・ハノイ) https://www.lixil.com/jp/about/structure.html 驪住(中国)投資有限公司 https://www.lixil.com/jp/about/structure.html 驪住科技(蘇州)有限公司 https://www.lixil.com/jp/about/structure.html 驪住衛生潔具(蘇州)有限公司 https://www.lixil.com/jp/about/structure.html 台湾驪住設備股分有限公司(台湾) https://www.lixil.com/jp/about/structure.html LIXIL India Sanitaryware Private Limited(インド) https://www.lixil.com/jp/about/structure.html LIXIL AFRICA HOLDINGS (Pty) Ltd.(南アフリカ) https://www.lixil.com/jp/about/structure.html LIXIL INTERNATIONAL Pte. Ltd.(シンガポール) https://www.lixil.com/jp/about/structure.html TOSTEM THAI Co., Ltd.(タイ) https://www.lixil.com/jp/about/structure.html 驪住通世泰建材(大連)有限公司(中国・大連) https://www.lixil.com/jp/about/structure.html LIXIL GLOBAL MANUFACTURING VIETNAM Co., Ltd.(ベトナム・ドンナイ) https://www.lixil.com/jp/about/structure.html PT. LIXIL ALUMINIUM INDONESIA(インドネシア) https://www.lixil.com/jp/about/structure.html LIXIL WINDOW SYSTEMS PRIVATE LIMITED(インド・ハリヤナ州) https://www.lixil.com/jp/about/structure.html
静かながら熾烈な「窓戦争」の第2幕は、もう始まっている。
静かながら熾烈な「窓戦争」の第2幕は、もう始まっている。
その舞台の中心に、今日のYKKとパナソニックの決断がある。
相川スリーエフもまた、新築市場からストック住宅市場へと軸を移しつつ、都心の商圏ならではの新築需要をしっかりと取り込みながら成長を続けていく。
そして、サッシ/窓の代理店として、設計施工体制をさらに強化。
新築向けはビルサッシ工事に注力しつつ、戸建住宅やマンションの断熱サッシリフォームにも注力する。
同時に各種サッシや幕板、板金の製作も工場を移転して強化して行く。
またRC/木造住宅建築の建設会社として、都心の高級住宅を建て替えていきつつ、リフォーム、リノベーションにも注力する。
日本の住宅市場はまだまだ大きな可能性を秘めている。
これからも、この2つの大企業が国内の建材業界を牽引しながら、海外で大活躍して欲しいと願う。

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https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/2063937.html
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